umito.® 海と魚がもっと好きになるウェブマガジン

5つの郷土寿司からみる!寿司の歴史をたどる旅

寿司と聞いて、どんな姿を思い浮かべるでしょうか。回転寿司で流れてくるような、しゃりの上にネタがのった握り寿司でしょうか。しかし、ちらし寿司や手巻き寿司があるように、一口に寿司といってもその見た目や作り方は様々です。海に囲まれた日本では古くから魚食文化が育まれ、各地で生み出された魚を使った寿司が郷土料理として今でも残っています。

今回は日本各地に根付いた郷土寿司を5種類、その歴史の古いものから順にご紹介します。今も各地に残る寿司をたどると、日本の寿司の歴史と、それを育てた文化が見えてきます。それぞれの寿司を支えてきた魚の暮らしにも触れながら、日本の魚食文化の奥深さをたどっていきましょう。

寿司のはじまり|米で魚を保存する「なれずし」

寿司のはじまりは「なれずし」といわれています。なれずしとは塩漬けにした魚を米と一緒に漬け込み、乳酸発酵させたもので、漬かって「馴れる・熟れる」ことからその名がつきました。その歴史は古く、奈良時代に近江や若狭の国から都へ寿司が納められた記録や、平安時代には保存食として食べられていたという記録が残っています。米と魚が同じ土地で手に入る風土があったからこそ、寿司は各地に根付いていったのです。

(サバのなれずし)

やがて、漬け込む時間は短くなっていき、室町時代には期間を縮めて、酸味のついた飯も一緒に食べる「なまなれ」が生まれました。さらに江戸時代には、発酵を待たずに酢で酸味をつける「早ずし」へと移っていきます。まずは、いちばん古い形を今に伝える滋賀県のふなずしから訪ねてみましょう。

ふなずし|滋賀・いちばん古い形を今に伝える発酵の寿司

なれずしの姿を、今もそのまま残しているのが滋賀県の「ふなずし」です。琵琶湖でとれた子持ちのニゴロブナを、うろこと内臓を取って塩漬けにした料理です。

「飯漬け」という工程で、塩を混ぜた飯とフナを桶に交互に積み重ね、半年以上かけて発酵と熟成をすることで、骨まで軟らかくなることが特徴です。このふなずしは、平成10年(1998年)には滋賀県の無形民俗文化財「滋賀の食文化財」に選ばれています。滋賀県では正月や人の集まる祝いの席に欠かせない、伝統的な一品です。

(ふなずし 出典;農林水産省ウェブサイト ふなずし 滋賀県 | うちの郷土料理:農林水産省)

ふなずしに使用されるニゴロブナ(Carassius buergeri grandoculis)はコイ目コイ科の魚で、琵琶湖水系にのみ生息する固有亜種です。近年は生息数の減少が懸念されており、環境省レッドリスト2020では絶滅危惧ⅠB類(EN)に選定されています。

丹後のばらずし|京都・鯖街道が運んだハレの日の寿司

発酵をじっくり待つ寿司に対して、飯ごと味わう寿司も各地で育っていきました。京都府北部の丹後地域に伝わる「ばらずし」は、木枠に酢飯とサバのおぼろを層に重ねた寿司です。祭りや結婚式、雛祭り、正月と、人が集まる日に登場するハレの日の料理として楽しまれてきました。

では、このばらずしで使われる魚に、なぜサバが選ばれたのでしょうか。答えは、丹後半島が若狭湾に面したサバの産地だったからです。冷蔵する手段が発展していなかった時代、鮮度が落ちやすいサバは、若狭湾で水揚げされた後、塩漬けにしたり、火を通したりして京都などの内陸へ運ばれました。サバを長い時間煮ておぼろにし、酢飯と合わせるばらずしも、日持ちさせながらおいしく食べるための工夫だったのです。若狭から京都へサバを運ぶ道は、のちに鯖街道と呼ばれるようになります。京へ向かう道は一本ではなく、いくつものルートがありました。

最近では、サバの缶詰も丹後のばらずしには欠かせない食材として活躍しています。

(丹後のばらずし  出典;農林水産省ウェブサイト ばらずし 京都府 | うちの郷土料理:農林水産省)

マサバ(Scomber japonicus)はサバ科の回遊魚で、大きな群れをつくって沿岸や沖合を移動します。産卵期は春から夏で、南の地方ほど早く、九州では3月から4月、東北では5月頃です。旬は秋から冬にかけてで、この時期は脂がたっぷりとのり、濃厚な味わいを楽しめます。日本のサバ類でもっとも漁獲量が多く、いわばサバの代表格です。

日本から世界まで、愛され続けるサバの秘密

ます寿司|富山・江戸時代に生まれた笹の押し寿司

時代は江戸へ。酢を使う「早ずし」が広まると、各地でさまざまな形の寿司が生まれます。富山県の「ます寿司」は、曲げ物の器に笹を放射状に敷き、酢飯と薄紅色のサクラマスを重ねて押し固めた寿司です。笹で包むことで香りが移り、味がなじんでいきます。

ます寿司のはじまりは江戸時代の享保(元号:1716年から1736年)の時期にまでにさかのぼります。富山藩士の吉村新八がアユを使った寿司をつくり、三代藩主の前田利興を通じて将軍・徳川吉宗に献上したところ、将軍がその味を賞賛したといわれています。のちにアユのかわりにサクラマスが使われるようになり、富山県の名物となりました。大正時代以降には駅弁として知名度が上がったことで、今でも楽しまれている郷土寿司です。

(ますずし 出典;農林水産省ウェブサイト ます寿し(ますずし)|にっぽん伝統食図鑑:農林水産省)

このます寿司に使われるサクラマス(Oncorhynchus masou masou)はサケ目サケ科の魚です。実は渓流魚として知られるヤマメと同じ魚で、川で生まれて1年以上を過ごしたあと、川に残ったものをヤマメ、海に下ったものをサクラマスと呼びます。一般的に、サクラマスは春から初夏にかけて海から川へ遡上し、その後数か月を河川で過ごして秋に産卵します。遡上時期は地域によって異なり、北へ行くほど遅くなる傾向があります。遡上の時期が桜の咲く時期と重なることや、産卵時の体色が桜色をしていることなどからサクラマスという名がついたとされています。

Umios(旧マルハニチロ)が挑むサクラマス陸上養殖~在来種を守り地域の食文化を次世代へ~

江戸前寿司|東京・江戸の町で広まった握り寿司

ここまで見てきた寿司はいずれも地域に根付いた郷土寿司です。しかし江戸時代になると、寿司は各地の郷土料理から町人文化の中で大きく発展し、現在の握り寿司へとつながっていきます。その象徴が江戸前寿司です。酢飯にネタをのせて握り、その場で食べる、現在でも寿司と聞いたときに一番にイメージが浮かぶ程、親しまれている料理です。「江戸前」とは、江戸湾、つまり今の東京湾で獲れた魚介類のことです。この魚介類はただ生のままシャリにのせられるわけではなく、煮る、蒸す、ゆでる、醤油に漬ける、昆布で締める、酢で洗って締めるなど様々な工夫をして食べられます。こうした手当ては「仕事」と呼ばれます。

(現代でも愛されている江戸前寿司)

江戸前寿司を代表するネタのひとつがアナゴです。煮アナゴに使われるマアナゴ(Conger myriaster)は、東京湾を代表する魚で、夜行性のため、前の晩に仕掛けたアナゴ筒や延縄(はえなわ)で獲ります。

ウナギとアナゴの違い


今回ご紹介した5つ郷土寿司は、形も味わいもまるで違いますが、どれも魚をおいしく食べるための知恵から生まれたものです。旅先で見慣れない寿司に出会ったら、ぜひその土地の魚を思い浮かべながら味わってみてください。