スズキは、古くから刺身や塩焼きの姿で、日本の食卓で親しまれた白身魚です。また、釣りの世界ではシーバスと呼ばれ、強い引きから釣り人に人気の魚です。さらに、出世魚として、成長に伴い日本各地で呼び名が変わる魚でもあり、各地域で楽しまれています。様々な形で人との関わりが深いスズキですが、その背景には、海と川を行き来しながら暮らす独特の生態があります。今回は、そんなスズキについて詳しくご紹介します。
(銀色の体が美しいスズキの成魚)
スズキ(Lateolabrax japonicus)は、文字通りスズキ科の魚です。長くスズキ目の魚として扱われてきましたが、近年は、ホタルジャコ目という魚の仲間に分類されるようになりました。
日本の近海には、スズキ科の仲間が3種います。1種類目はスズキ、2種類目はヒラスズキ(Lateolabrax latus)、そして3種類目がタイリクスズキ(Lateolabrax maculatus)です。もともとタイリクスズキは中国大陸沿岸の魚で、日本では有明海など大陸に近い九州周辺の海のほか、古く養殖されていた場所から逃げた個体の生き残りが日本各地でも確認されています。
3種を並べると、姿かたちは非常に似ています。見分けるポイントは、ヒラスズキはスズキに比べて体高が高く、尾の付け根が太くて尾びれの切れ込みが浅いことです。さらに、スズキは、内湾や河口をおもな生息環境にするのに対して、ヒラスズキが暮らすのは波の当たる磯で、川に入ることは少ないとされます。
タイリクスズキは、体側に鱗より大きな黒い斑点が並ぶのが目印です。その特徴から、ホシスズキという別名でも呼ばれます。
冒頭で、スズキは川でも海でも生きることができると説明しました。実際には、スズキは、傾向として生育過程で川と海を行き来して生活しているのです。
スズキの一年は、冬の産卵から始まります。産卵の盛期は12月から1月とされますが、時期には地域差があり、早い海域では秋のうちに始まり、遅い海域では冬の半ばを過ぎます。産卵場には内湾の水と外海の水がぶつかる境界付近や、沿岸のやや深い海が選ばれ、それぞれの海の条件に合わせて、時期と場所を変えているようです。
生まれた稚魚が向かうのは、沖ではなく川の方向です。春になると多くの個体は河口や汽水域を利用し、一部は淡水域まで遡上することが知られており、秋になると再び海へ下っていきます。育つ場所は、大きな川の河口や、アマモが茂る浅い海などです。夏のあいだに数cmから十数cmへと育ち、秋には湾の深みへ移ります。
興味深いことに、近年の研究では、生育過程で川を使うかどうかが成長と関係することが分かってきました。0歳から1歳の時期に川へ入った個体は、沿岸にとどまった個体より成長が速いという結果が出ています。さらに、0歳で川を経験した個体は、1歳を過ぎても川を使い続ける傾向があります。若いうちに利用した環境は、その後の生活にも影響しているようです。
成長そのものは、決して速くありません。食べるものも成長とともに変わります。小さいうちは小型の甲殻類、成魚になるとアユやカタクチイワシといった小魚を追います。
スズキが出世魚と呼ばれるのも、この移り変わりと無関係ではありません。東京ではコッパ、セイゴ、フッコ、そしておよそ60cm以上に成長したものをスズキと呼びます。しかし、大阪などの関西地方や、中でも三重県では成長途中の個体を、違う名前で呼びます。詳しくは下記表をご覧ください。セイゴの小さい時期は河口や汽水域にいて、大きくなるにつれて沖へ出ていきます。名前が変わることは、生息域が変わることでもあるのです。呼び名が土地ごとに違うのは、それぞれの地域で古くから親しまれてきたことの表れともいえるかもしれません。
| 幼魚 | → | 成魚 | |
| 関東(東京) | セイゴ | フッコ | スズキ |
| 関西(大阪) | セイゴ | ハネ | スズキ |
| 中部(三重) | セイゴ | マダカ | スズキ |
(地域ごとのスズキの呼び名)
呼び名が土地ごとに違うように、食べ方も土地ごとに分かれています。食べる魚としてのスズキは、一般的には夏が旬とされています。淡白な白身ですが、成長するほど脂がのります。
スズキの食べ方としてよく知られているものが「洗い」です。洗いとは薄くそぎ切りにして氷水で締める料理で、冷水で洗うことで身がキュッと締まるだけでなく、余分な成分も流してさっぱりとした味わいを楽しめます。スズキの漁獲量が全国一位の千葉県では、洗いのほかに、ムニエルやフライといった洋風の料理でも楽しまれています。
島根県には、汽水湖である宍道湖(しんじこ)と結びついた郷土料理が残っています。スズキの奉書焼きです。松江藩七代藩主の松平治郷が所望したことに始まるとされ、奉書紙に包んで蒸し焼きにします。スズキは宍道湖七珍のひとつに数えられます。宍道湖では秋から初冬が食べごろとされ、産卵に向けて体が肥える時期にあたります。汽水の魚だからこそ、湖のほとりに料理が育ちました。
(スズキの奉書焼き 出典:島根観光ナビ)
日本の沿岸漁業全体の漁獲量が30年でおよそ半分にまで急激に減少したなかで、スズキの漁獲は減少傾向ではあるものの比較的緩やかに推移してきました。その背景には、海だけでなく川の恵みも柔軟に使える適応力があると考えられています。
スズキの安定は、河口や汽水域が保たれていることの上に成り立っています。次にスズキを口にするとき、どこかの川にのぼった一尾かもしれないと思い浮かべてみてはいかがでしょうか。海と川のつながりが、少し身近に感じられるはずです。