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魚のおいしさって何?うま味成分の秘密

魚のおいしさを語るとき、多くの人が「新鮮さ」や「脂ののり」、「歯ごたえ」などを思い浮かべるでしょう。しかし、「うま味」も魚のおいしさを決める大切な要素です。実はうま味とは何かが科学的に解明される前から、私たちは工夫を凝らして魚のうま味を利用してきました。
本記事では私たちが魚をおいしいと感じるのに大切なうま味とは具体的にどのような成分なのか、そしてそれを利用してきた人間の知恵を紹介します。

うま味とは何か

私たちが感じる味覚は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5つに分類されます。これを「五味」と呼びます。このうち、うま味成分は主に3種類知られており、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸です。
イノシン酸は、グルタミン酸と組み合わせることで、うま味が約7〜8倍に増幅される相乗効果があります。日本料理の基本である「昆布と鰹節の出汁」はグルタミン酸を多く含む昆布と、イノシン酸を多く含む鰹節を使用することで相乗効果によって深いうま味を生み出す、まさにこの科学的原理を応用した伝統技法です。魚にはこのグルタミン酸とイノシン酸の両方が含まれており、私たちが⿂を「おいしい」と感じる要因の一つと言えます。 それでは、このグルタミン酸とイノシン酸について詳しく紹介していきます。

(昆布と鰹節を使った出汁)

魚に含まれるグルタミン酸

グルタミン酸は、ほぼすべての生物が持つ普遍的なうま味成分です。たんぱく質由来であるため、肉や魚、大豆製品など多くの食材に含まれています。魚の場合、死後の熟成過程で筋肉中のたんぱく質がプロテアーゼという酵素によって分解され、より小さな塊であるペプチドを経て約20種類のアミノ酸に分かれていきます。たんぱく質自体は味を感じませんが、分解して生じたペプチドやアミノ酸はその種類によってうま味や甘味、苦味などを呈します。グルタミン酸はそれらのアミノ酸の中でも、代表的なうま味成分として知られています。

(たんぱく質の分解によって生じるグルタミン酸)

魚に含まれるイノシン酸

イノシン酸は、魚が死んだ後に筋肉中のATP(アデノシン三リン酸)という物質が段階的に分解されることで生成される物質です。ATPは生物がエネルギーを貯蔵・利用するための重要な物質です。魚が死ぬと、このATPがADP(アデノシン二リン酸)→AMP(アデノシン一リン酸)→イノシン酸(IMP)→イノシン→ヒポキサンチンという順序で分解されていきます。このうち、イノシン酸はうま味成分ですが、それが分解することで生じるイノシンやヒポキサンチンはうま味を持たない物質です。

(熟成中の魚で起こるイノシン酸の物質変化)

魚をおいしく食べるための鍵は「熟成」にあります。獲れたての魚をそのままを食べるよりも、冷蔵で1日程度寝かせるほうが魚肉中のイノシン酸量が増加し、うま味が増していきます。ただし、前述のとおり、時間が経ちすぎるとイノシン酸の分解が進み、うま味が弱くなるとともに鮮度も低下します。適切なタイミングを見極めることが、魚を最もおいしく食べるコツです。

魚の鮮度とうま味のバランスは、調理法によっても使い分けることができ、刺身の場合、マグロやブリなどは熟成させることでうま味が増し、とろけるような味わいになります。 一方、熟成によって生じるうま味成分よりも、鮮度を重視し、身のコリコリとした食感を楽しむ食べ方もあります。煮物や焼き物では、熟成した魚のほうがイノシン酸含有量が多く、うま味が強く感じられます。料理の目的や好みに応じて、最適なタイミングで調理することが大切です。

イノシン酸を活かした魚料理・加工品

では、イノシン酸のうま味を保存することはできないのでしょうか。イノシン酸を分解させず長期間保存するためには、分解に関わる酵素を失活させる必要があります。イノシン酸を分解する酵素(5’-ヌクレオチダーゼ)は、加熱処理で失活します。そのため、適切に熱を加えることで、うま味を長期間保存することができるのです。また、低温や塩水処理により酵素の働きを低下させることでもイノシン酸の分解を抑えることができます。
人間は古くからうま味を閉じ込めた調理法を考案してきました。

鰹節はイノシン酸を多量に含む食品です。鰹節はカツオを煮熟→燻製→乾燥→カビ付けという工程で作られ、加熱で分解酵素を失活させ、その後の乾燥・カビ付けの工程で水分が抜けてイノシン酸が何倍にも濃縮されます。

(鰹節)

干物もうま味が凝縮された食品です。塩水処理による分解酵素の失活と、天日干しによる乾燥でイノシン酸が濃縮され、適度な熟成も進むためグルタミン酸も増加します。焼いて食べることで香ばしさも加わり、ご飯のおかずとして最適な一品になります。

(魚の干物)

魚にはグルタミン酸とイノシン酸が多く含まれており、適切に調理することでうま味を最大限に引き出すことを紹介しました。先人たちは経験則としてこれらの知恵を積み重ねてきましたが、現代の科学がその正しさを証明しています。本記事で知った魚のうま味の秘密を少しでも意識してみることで、毎日の食卓がより豊かでおいしいものになるのではないでしょうか。