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ホタテの貝柱はなぜ大きい?生物学的な役割とサイズの秘密

お寿司屋さんで、海鮮丼で、バター焼きで。ホタテの貝柱は日本人にとって馴染み深い海の幸のひとつです。あのプリプリとした食感と、ほんのりとした甘みは、多くの人を魅了してやみません。

(プリプリのホタテ貝柱)

ところで、ホタテの貝柱を手に取ったとき、「なぜこんなに大きいのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?アサリやシジミといった他の二枚貝に比べても、貝柱はホタテでしか見ないほど明らかに立派です。実はこの大きさには、ホタテが海の中で生き抜くための生物学的な秘密が隠されています。
この記事では、ホタテの貝柱がなぜ大きいのか、その役割は何なのか、そして私たちが普段食べている貝柱のサイズにはどんな違いがあるのかを、わかりやすく解説していきます。

ホタテの基本情報

ホタテガイ(Mizuhopecten yessoensis)は、二枚貝綱イタヤガイ目イタヤガイ科に分類される貝類です。扇形の美しい貝殻を持ち、寒冷な海域を好んで生息しています。私たちにホタテとして馴染み深いこの貝の体は、いくつかの重要な部位で構成されています。

(ホタテの各部位の名称(左側の貝殻、外套膜及び鰓を除去して撮影)
出典:(地独)青森県産業技術センター水産総合研究所)

まず、外側を覆う貝殻は2枚で、片方が平らで、もう片方がやや膨らんでいます。
そして貝殻の中央には、今回の主役である貝柱(閉殻筋)があります。貝柱は貝殻を開閉するための筋肉です。
貝柱の周囲には、外套膜(がいとうまく)と呼ばれる薄い膜が広がっており、その縁の部分はヒモとして食用にされます。ヒモには黒い点がたくさん存在しますが、実はその一つ一つがホタテの目なのです。また、オレンジ色や白色の生殖巣(卵巣・精巣)も食べることができます。「ウロ」と呼ばれる黒っぽい中腸腺という部分もありますが、これは砂や老廃物が溜まりやすいため、調理時には取り除かれることもあります。
ホタテを食べるとき、最も多く口にするのは貝柱です。お寿司や刺身で提供されるのは、まさにこの閉殻筋の部分です。

ホタテの貝柱はなぜ大きいの?生物学的な役割

ホタテの貝柱は体重の約10~15%を占めるとされています。これは他の二枚貝と比較しても非常に高い割合です。実は、アサリやカキ、ハマグリといった二枚貝にも貝柱(閉殻筋)は存在します。しかし、これらの貝の貝柱は非常に小さく、体重の数パーセント程度にすぎないため、食用として注目されることはほとんどありません。

なぜホタテの貝柱だけが大きいのでしょうか?その理由は、他の貝とは異なるホタテの特徴的な生態にあります。

その生態とは、海中を泳ぐことができる点です。泳ぎ方は貝殻を素早く開閉し、貝殻の隙間から水を勢いよく噴き出します。この反動を利用して、ジェット推進のように進みます。ホタテは貝殻を素早く開閉させるために強力な筋肉が必要となった結果、貝柱が大きく発達したのです。
一方、アサリやカキは海底の砂の中に潜ったり、岩に張り付いて生活し、ほとんど移動する必要がないため、貝柱はそれほど発達していないのです。

ちなみに、ジェット噴射は貝の蝶番の両サイドにある噴出孔から噴き出します。そのため、ホタテは泳ぐとき殻が開いている方向に向かって進みます。
ホタテのこの能力は、ヒトデなどの天敵から逃げるために非常に重要です。海底を這って移動するしかない他の貝に比べ、ホタテは圧倒的に機動力に優れています。動画をご覧ください。




(貝殻を素早く開閉させて泳ぐホタテ 出典:新江ノ島水族館)

食卓に並ぶ2つのサイズ

スーパーや鮮魚店で目にするホタテの貝柱には、大きさが異なる2つの種類があるのはご存じでしょうか。

(小型と大型の貝柱)

小型の貝柱は、直径3~4cm、重さ15~20g程度で、ベビーホタテとして親しまれています。
大型の貝柱は、直径5~7cm、重さ30~50g以上になり、肉厚な身は刺身などで親しまれます。
この二つは、大きさこそ違えどどちらもれっきとしたホタテです。
ではなぜ同じホタテでも、サイズが大きく異なるのでしょうか。このサイズの違いは、主に養殖期間と成長段階によって決まります。養殖ホタテは稚貝を放流してから1年で殻長約8cm、2年で約10cm、3年で約12cm以上に成長し、貝柱のサイズもこれに比例して大きくなるのです。養殖期間によってその方式も大きく異なります。ベビーホタテは主に養殖1~2年目のホタテから取れるもので、日本海側での垂下方式という方法で養殖され、特に噴火湾(正式名称:内浦湾) での養殖が有名です。一方、大型の貝柱は主にオホーツク海沿岸で地撒き方式という方法で生産される養殖3年目以降のホタテや、天然の成熟したホタテから獲れるものです。

(北海道周辺のホタテ養殖)

ホタテは養殖方法で用途が分かれるってホント?


ホタテの貝柱が大きい理由は「泳ぐため」という生物学的な理由がありました。天敵から逃げるために発達した閉殻筋が、私たちの食卓では美味しい貝柱として楽しまれています。
次にホタテの貝柱を口にするときは、ぜひこの記事を思い出してみてください。あの立派な貝柱には、ホタテが海の中で懸命に生きてきた証が詰まっているのです。そう考えると、いつもの一口がもっと特別なものに感じられるかもしれません。