海に囲まれた国である日本では、古くから人が海に出て魚を獲り、その恵みとともに暮らしてきました。魚を食べる文化は、日本の伝統的な「和食」を支える柱のひとつでもあります。近年、そんな海の環境は大きく変わっており、昔たくさん獲れた魚でもいまでは同じようには獲れなくなってきました。そんな中、あまり食べられてこなかった魚に目を向ける動きが広がっています。
Umiosも「umios Planet」という取り組みの中で、未利用魚や低利用魚の活用を進めています。今回、umito.ではその中でも「クロダイ」の取り組みについて、海や魚の視点から掘り下げて紹介します。
(クロダイのリエット)
近年、「プラネタリーヘルス」という考え方が広がっています。これは人の健康と地球環境の健全さを、一体として捉える考え方です。プラネタリーヘルスの視点から見ると、魚はあらためて評価される食材です。栄養が豊かで、ほかの動物性たんぱく源に比べて環境への負荷が低いとされています。しかし、前述のとおり、近年海の環境は大きく変動し、不確かなものとなっています。日本の漁業・養殖業の生産量は1984年の1,282万トンをピークに減り続け、2023年は383万トンにまで落ちています。獲れる量も担い手も減る中、海にあるものをどう無駄なく活用するかが問われています。
(プラネタリーヘルス:すべての生命と地球の健康がつながる世界)
umios Planetは、東京大学、プラネタリーヘルス・イノベーションセンター、JR東日本、各地の漁協・漁業者などのパートナーとともに進めるプロジェクトです。「海の恵みを、未来へつなぐ」を掲げ、魚を単なる「原料」としてではなく、宝物のようにとらえ直し、消費者・地球(海)・漁業従事者それぞれがもっと豊かになる「三方よし」の循環を目指します。
(umios Planetが目指す新しい水産の仕組み)
日本周辺の海には約3,700種の魚がいるとされますが、売り場に並ぶのはごく一部です。量がまとまらない、知られていない、手間のわりに値がつかない。そうした理由で流通に乗りにくい魚を、未利用魚や低利用魚と呼びます。
いまの漁業は効率化が進む一方で、限られた魚種に漁獲が集中しがちです。そのため、せっかく「味が良い」などの魅力があっても、認知度の低さや流通上の課題などからその価値が広く知られていない魚は、活用の機会を失っているのです。umios Planetでは、研究領域の一つに未・低利用資源の活用を設定し、この課題の解決に向けて取り組みを進めています。本記事では、umios Planetの中で未・低利用魚の取り組みの第一弾に選ばれたクロダイについて、詳しく紹介します。
クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)はタイ科クロダイ属の魚で、金属光沢のある黒褐色の体色をしています。北海道以南の沿岸に広く分布し、内湾や河口、藻場で暮らします。
この魚の特徴は、食べるものの幅の広さです。雑食性で、甲殻類や貝類、小魚のほか海藻も食べます。この食性が、次に述べる問題と深く関係しています。
(金属光沢をおびたクロダイ)
クロダイは西日本を中心に古くから食べられ、特に岡山県では「前浜の高級魚」として親しまれてきました。日生(ひなせ)、下津井(しもつい)、寄島(よりしま)といった港町で水揚げされます。秋から冬は脂がのり、マダイに劣らないうま味があるとされます。
それでは、なぜクロダイが課題解決の第一弾として選ばれたのでしょうか。理由のひとつは、この魚の数が増えていることです。
さらに、ただ増えただけではなく、新たな被害も生まれています。クロダイが特に好む餌のひとつが、養殖のノリやカキです。千葉県の調査では、冬に漁獲されたクロダイの胃を調べたところ、およそ7割からノリが見つかりました。岡山県でも、ノリ養殖漁場の内外で漁獲されたクロダイの半数の胃から、多量のノリが確認されています。同じような食害は各地で報告されており、いまや日本全体の課題になりつつあります。ノリの生産量はさまざまな環境要因に左右されますが、その中で、クロダイによる食害も現場の課題のひとつとして認識されているのです。
そのクロダイを駆除の対象とするのではなく、美味しさや利用例を全国的に発信して活用の機会を増やし、資源量と利用量のバランスを適切に保つことが重要です。
さらに、それを積み重ねることが持続可能な水産業の実現につながると期待されています。
クロダイが選ばれた理由は、数が増えたからだけではありません。十分な価値を持ちながらも活用されていない魚は、日本の海にまだ多くいます。クロダイは、その課題を乗り越える可能性を持つ魚なのです。
umios Planetの第一弾の商品として、岡山県産のクロダイを使ったリエットの缶詰を4月に発売しました。されました。クロダイのポテンシャルを活かした、ワインとのマリアージュを楽しめる高級感のある一品です。
(岡山県産クロダイのリエット(左) 食べ方イメージ(右))
umios Planetの取り組みはこれで終わりではありません。この缶詰を通して、全国的にはまだ十分に活用されていないクロダイの美味しさが少しでも多くの人に伝わることで、クロダイは「知らない魚」から「知っている魚」になり、少しずつ、購買意欲につながることを狙っています。増えすぎた魚を駆除対象とするのではなく、新しい食べ方を提案することで価値を生み出し、利用量の増加につながります。これは特定の魚種に依存せず多様な魚介類を活用する、水産資源の持続可能な利用につながります。umios Planetはそんな循環を目指して活動をしております。
さらにその先では、クロダイに続く似た境遇のほかの魚にもスポットライトを当て、より多くの未・低利用魚の価値創造を目指していきます。
また、一尾の魚を余すことなく使うこともとても重要です。一尾から多くの価値を引き出せれば、獲る量を増やさずに食卓を豊かにでき、フードロスの削減にもつながります。
umios Planetは、クロダイの活用を第一歩として、これからも魚の価値を見つめ直し、地球を豊かにする仕組みづくりに取り組んでいきます。